消失点の向こうへ
忘却バッテリー153話 感想
ネタバレです。未読の方、アニメオンリー勢 コミックス派の片はブラウザバックなどしてくださいね
智将が消えた。いつか消えると思っていたけど。今だとは思っていなかった。ので読み終わってしばらく呆然としていた。
私は今悲しい。ものすごくさびしい。辛いったらない。
それに、は?まだ消えたと決まってませんが?という意見も当然あると思う。
全然否定しない。
でもこれから私は 智将はたぶんほんとうに消えたのでは、という話を書きます。
他責をしない子たち
忘却バッテリーの登場人物たちは他責をしない。皆”自分が許せない”という理由で心を折る。
千早くんも葵ちゃんも、野球に絶望したのではない。自分に絶望した。そして野球から遠ざかった。
野球とかくだらねえ、愛想がつきたというのならミットもグローブもほんとうに捨てるし、ぜったいノートも捨てると思う。
むしろ野球に執着しているからこそ辛いのだ。執着とはこの場合愛だろう。野球の本質部分にある素晴らしさを知っている子たちだから。
初期野球部員以外もそうだ。
例えば億り姫ちゃん。いじめ(という言葉は作中出てこないけどこれはそうでしょ)を受けてたのに、いじめた子たちを恨まない。「なぜ他人の言葉にしたがってしまったのか」と自分の選択についてメロンパンをくわえて泣く。かわよかわよ。
ひとりひとり詳しく書かないけど、みんなそんな感じ。
だから私はこの漫画が大好き。みんな優しくて誇り高い。
そして要圭もその一人。すでにそう描かれている。一瞬でも葉流火と出会わなかったらと望んだ自分を忘れたかったのだと。
陽明館のバーター扱いを恨んだのではない。監督やコーチを憎んだのでもない。見ているこっちが過呼吸になりかけたあの葉流火とのやりとりについてはこれから何か描かれると思うのだけど。なんとなく、最終的には圭は自分を責めたのではないかと思ってる。わからないけど。
そのように自分自身に絶望した要圭に必要だったのは。
あるいは心の奥で希求していたものは。
いみじくも葵ちゃんがつい最近アニメで言語化してくれた
「俺、先に進めるんだ。進んでいいんだ」
その実感だったのでは。
片目を隠す君
12巻84話で智将とマスターが凪薫のビデオをみている。大阪陽盟の正捕手。亀田監督の本命。圧倒的フィジカルの持ち主である彼は座ったままセカンドに送球し小里を刺している。
今回要圭は凪薫とは違うやり方でそれを成功させた。読みとステップで0.1秒の争いに勝った。野球技能のことはよくわからないけど、凄い技なんだと思う。
『勝つことでしか積み重ねたすべては肯定されない』
これは小里のことでありそして要圭のことでもあるのでは。
探しきれなかったんだけど、作中どこかに片目を隠した智将の扉絵があった。
これは、自分の可能性を見失っている、あるいは見ようとしない彼の姿ではなかったか。
花木戦で釘が抜けて。
ワンバンを捕球してスクイズを阻止して。
葉流火ではなく瀧をリードして帝徳打線を抑えて。
0.1秒の勝負に勝って。
今(153話)、君は両目で世界を見る。
実感したのは誰?
智将は『要圭ならできる』とか言ってた。「お前も要圭だろ!」と多くの人がツッコんできたと思う。それは要圭を褒めるときだからだ。でも、そういえばそのときは『主人は(マスター)ならできる』といわなかった。
智将が『要圭は』と言った時、それはマスターと智将が分かたれていない『要圭』だったのではないかなあ?
どっちかの意識がなくなってたりしてたよね?だから分断されていると思っていたのだけど。
小手指での(成功)経験がその分断を埋めたのか。
マスターの成功は智将の成功でもあったとすれば。(いや、そうだよね)
”前に進めるんだ。進んでいいんだ”
と実感したのは、智将。させたのは、マスター圭ちゃん。
ということにならないかな。
はるちゃんならこう言うかも。
もともと、圭は圭だから。
打倒とは
『清峰葉流火には未来がある』
智将は常にそう言っていた。
『清峰葉流火と要圭には未来がある』
今、そう言ってくれたことを言祝ぐ。
要圭の未来が見えたから智将はいなくなったのだと思う。
先に進めるんだ、と思えたから。
もう、打ちのめされ絶望し未来がみえなくなった彼はいないから。
「あれは智将の記憶」マスターの圭ちゃんが言っていた。
(その時はどういう分断だよと思っていたのだけどね。)
打倒智将要圭。
それはマスターが智将のレベルに追いつき追い越す物語であると同時に、
絶望していた昔の自分をマスターと智将がいっしょに打倒する物語だったんじゃないのか。
私は、メタ視点でも、智将は物語を牽引する役割を終えたのかな、という気がしている。
それで、ああ、消えてしまった、と思っている。
でもさ
私、べつに自分が正しいとも思っていない。智将が来週しれっとベンチにいてくれてもかまわない。
むしろ、おばちゃん待ってるからね。
(この文章は小里くんがかませ役みたいになってしまってすごく申し訳ない。ごめんなさい小里くん)